東京高等裁判所 昭和38年(う)1475号 判決
被告人 朴熙正
〔抄 録〕
所論は、原裁判所は、原判示第一の事実につき被告人並びに原審相被告人吉野一郎とが共同正犯者として起訴せられたものであるところ、その第一回公判手続において被告人等の罪情認否の陳述を聴いた上、直ちに右吉野一郎に対する審理と被告人に対する審理とを分離し、右吉野一郎に対する証拠調その他の審理をし被告人の第二回目の公判期日(昭和三十七年十二月十一日)の以前たる同年十一月二十九日に有罪判決の言渡をした上、被告人の本件審理に入つている。殊に被告人の第一回公判においては右事実を否認し検察官の証拠調請求にかかる工藤孝広、永井一雄、吉野一郎、竹門睦子の供述調書を証拠とすることに同意せず、工藤孝広等の証人との喚問を求めているのに、原裁判所は右供述調書を右吉野一郎の審理において証拠調をなし、被告人に対して既に有罪の心証を形成した上、被告人のその後の審理に臨んでいるものであつて、このような訴訟手続の進行は、予断排除の原則に則つて審理をすべきであるとの刑事訴訟法第二百五十六条の趣意に反する違法のものであつて、この違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであるというにある。
よつて、記録を精査するに、原審第一回公判手続においては、原判示第一の事実につき共同正犯者として起訴せられた原審相被告人吉野一郎、被告人並びに各弁護人のいわゆる罪状認否の冒頭陳述がなされた後、検察官より被告人等両名に対する証拠として工藤孝広の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、竹内睦子に対する司法警察員に対する供述調書、永井一雄の検察官に対する供述調書、吉野一郎に対する司法警察員及び検察官に対する各供述調書その他の取調請求のあつたところ、相被告人吉野一郎の弁護人は右各供述調書を証拠とすることに同意し、被告人朴の弁護人は、右各供述調書を証拠とすることに同意せず、また、相被告人吉野一郎の弁護人は同人の情状立証のため在廷証人砂川一作の取調請求もしたので、原裁判所は相被告人吉野一郎の関係では、右供述調書等証拠とすることに同意した証拠及び右在廷証人の取調をなす旨を、被告人朴の関係では右不同意の供述調書の取調請求を却下し、右不同意の書面に代えて申請した検察官の証人工藤孝広、竹内睦子、永井一雄、吉野一郎に対する取調を次回にする旨を決定し、ここに両者の弁論を分離し、被告人朴については次回期日を昭和三十七年十二月十一日に指定告知し、相被告人吉野一郎については右決定に従い各々証拠調をなした上手続を進行し同年十一月二十九日右吉野一郎に対する有罪判決をなし、被告人朴については、右同年十二月十一日以降、前記証拠決定にもとづき審理が進められたことが認められる。右の場合のように相被告人吉野一郎が全面的に犯罪事実を自認し直ちに証拠調等審理をし判決をなし得る場合被告人と併合して審理を続行する必要がないから、原裁判所が右吉野一郎と被告人との弁論を分離したからと云つて、これを目して不適当の措置とは云えず、また所論証拠調手続は弁論分離後、右吉野一郎の関係に於てのみなされたものであるから、原裁判所が証拠の内容を知つていたからと云つて、被告人に対する証拠調のなされない前に被告人に対し有罪の心証を得ていたとは云えない。従つて原裁判所が叙上のとおり右吉野一郎を分離審判し、その後被告人に対する手続を進行し審判したからと云つて、原判決に所論のような刑事訴訟法第二百五十六条の趣旨に反する違法があるとは解し得ない。論旨は理由がない。
(鈴木 飯守 赤塔)